好きなのに言い出せない








もうすぐ、3ヶ月目だ。 親友の江里と田崎が付き合い始めてから。
そして、1年目だ。私が田崎の事を好きだと気付いてからは。

田崎はつきぬけて面白い奴だった。
何を言っても嫌味でないし、あいつの笑顔も特級だ。
こう思うのも私が田崎にほれてるからだと思う。
そして、田崎も3ヶ月前までは私のことが好きだったはずなのだ。
多分思い込みじゃない。
でもそのことをウジウジ考えてももう田崎は江里のものだし、
田崎自信も私を好きだったころなんて忘れてるだろう。

そんな事をうすぼんやり考えながら、
9月の心地悪い空気に包まれながら私は学校へととぼとぼと歩いた。
肌をさわる空気は重くて暑いのに、吹きぬける風は冷たくて、首筋が気持ち悪い。
9月のこういう気候のせいじゃなくても、
江里と田崎のことを考えてると何か胸がムカムカしてくるような気がする。
不愉快だ不愉快だ不愉快だ――。

ぽんっと誰かが背中を押した。
重たげに振り向くと、そこには江里が立っていた。
「ヨシちゃん顔色悪いな。どしたん。」
いつもどおりのテンションで話しかけてくる江里。
私は江里のことが好きだ。江里の声が好きだ。
さっきまでの押し寄せてくるような不快感は治まってきた。
「江里、今日は・・・」
「あ、たざき?たざきはおいてきた。
あいつバカだから。まだ布団で寝てる。
付き合いきれないから先来たの。」
淡々と、でもどこか楽しげに田崎について話す江里。

あぁ、この2人はあと数ヶ月は別れないだろうなぁ、とか考えて少し空しくなった。
江里から告白したんだっけ、田崎から告白したんだっけ?
詳しい事は知らない。いつの間にか二人は引っ付いてた。
もし私があらかじめ江里に田崎への気持ちを伝えておけば、江里は田崎に告白されたとしても付き合わなかったに違いない。
3ヶ月間、少し後悔していた。
江里に気持ちを打ち明けておけば、
さっきの江里のセリフと、私のセリフが入れ替わってたのかもしれないのだ。
「ヨシちゃん、たざきいないじゃんか」
「田崎さ、私が10分も待ってるのに来ないから置いてきたよ。
どうしようもないなぁ、あいつ。まだねてるんだよ。」
・・・どうしようもないのは自分だ・・・・。

 午後の昼休憩になって、やっと田崎は学校に入ってきた。
凄く眠たそうだけど、凄く機嫌悪そうだけど、どうせは田崎だから怖くない。
江里は田崎に
「おはよぉぶたざき。食っちゃ寝くっちゃ寝忙しいね」
と嬉しそうに話しかけてた。
田崎は眉一つ動かさずに
「食っちゃ寝するのは狸だ。ぼけなす」
と返す。田崎が私の存在にも気付いて、
「吉倉、江里の頭の悪さって小学校からなの?」
と聞いてくれた。
「田崎もいいセン言ってるよ。食っちゃ寝はウシだからさ」
私は嬉しさを隠す為、わざとそっけなく喋った。
「ぐぅ。」
と田崎がうなだれて、江里は
「ブタも食っちゃね食っちゃねするよ、きっと。」
と独りごとのように呟いてた。

 そう、私はこの3人でいるのが好きなんだ。
確認する。
私の気持ちがどうこうより、3人でバカみたいに喋ってたい。
私は自分の気持ちにも気付かないバカだから、こうするのは簡単なことだ。

田崎が私のことを今でも好きなのかは分からない。
いや、その可能性はホトンド残ってないだろう。
彼氏や彼女が出来たら、自分の気持ちなんてどうでもよくなるんじゃないか。
中学生の恋心はそんなもんだ。
淡いなんてもんじゃなくて、軽い。
彼氏彼女がいたらそれでいい。
気持ちよりも彼氏彼女彼氏彼女・・・・。

だから私も早く彼氏を作ろうと思う。
この耳の熱さも、のどの渇きもそのうちなくなるはずだ。
江里と田崎が肩を並べてるのを見ても、いつか何も感じない日が来るのだ。
私は教室の窓から曇り空を見上げながら、切実に誰かに祈った。


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