あなたと青空と伸ばした手の先に








 秋になると空が高くなる。本当に高くなる。夏のあの重々しい空気とは逆で、秋は私の肩を軽くする。
強い風がふくと、飛んでしまいそうな気になってしまう。少しセンチメンタルだ。帰り道、秋の気配に酔わされて少し感傷に浸ってたところ、隣にいる山江が
「今日のご飯は炊き込みご飯だといーなー」
と大きい声で話しかけてきたので、ノスタルジックな気分は一気に飛んでいってしまった。
 なんとなく山江に腹が立ったので
「アタシは茶碗蒸しのがいい」
と対抗してみると、山江はのんびり、間延びした声で
「茶碗蒸しもよきかなあ。エビとカマボコくいてえよなぁ。」
と返してきた。
「食べ物のことばっか考えてるの?いいね、山江はいいね。呑気でいいね。あんたさ、この切ない青空をみて、少しはノスタルジックに浸る、とかいうことはないの?」
少しトゲトゲした声で、山江に嫌味を言ってしまった。怒ったかもしれない・・・と心配したが、山江はやはり間延びした口調で
「何で青空をみて切なくなるんだ?晴れてていいじゃんか。だいたい川田、ノスタルジックの意味分かって言ってるー?」
と逆に詰問してきた。私はちょっと考えて、
「フィーリング、ってやつだよ。ノスタルジックってことばも、秋の青空を見て切なくなるのも。別に根拠なんてない。」
と、冷静になって言い返してみたら、やつは
「ふぅーーーん。」
興味が無さそうに口を尖らせてた。
 そして、ふいに手を挙げて、空に自分の手を透かした。私もマネをして、2人で空に手をかざした。
 空が、「高い」というより「遠く」感じてもっと切なかったけど、胸が躍るような気がした。空に触っている。
隣を向くと、山江が無表情でボソッと
「空って、絵かもな。」
と本当に本当に呟くように言った。山江の言ってる意味がよく分からなかったので「どういうこと?」って尋ねると
「立体的じゃないから。もしかしたら、大きな絵で、俺らを覆ってるのかもしれない。やべぇ、怖いな。」
深刻そうな顔で答えた。
山江の言っている意味はあまり分からなかったけど、私も怖くなったので、山江の手を握った。
 私と、山江が伸ばしている手の先の青空の果てには何があるんだろうか。やっぱりちょっとセンチメンタルな秋だなぁとしみじみ感じた。












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