タオル・オールバック・ビル







けだるい陽光が燦燦と照っていることはがカーテン越しにも分かる。進化した未来。でも朝日は変わらず高層ビルの俺の部屋を暖かな光で包んでいる。変わったのは生活のみだ。もう、人間がいなくても、人間は一人で生きていける。
 ぼんやりした頭でぐちゃぐちゃ考えていたのだが、そろそろ起きなくてはならない。と、ベッドの中の俺は呟いた。
ウィーンという機械音が俺に纏わり付いてる。ロボットだ。
「お早うございます。お顔を洗われては如何ですか?」
美しい声で爽やかな挨拶をこなすロボット。
洗面台でバシャバシャと豪快に顔を漱ぎ、仰げば何時もの定位置にロボットはタオルをもって立っている。思わず
「ありがとう」
という言葉がくちから零れだした。言った直後に「畜生」と自分をののしった。ロボットに返事を返して何になる、と。莫迦だ。
手にワックスを乗せて、頭につける。キッチリキッチリオールバックにする。数年前からスタイルは変わらない。
 気だるい朝、正確な発声、いつもの定位置、計算外の一言。そしてそれに大して自分を叱責する事。今日もなんら変わらない・・・。
 誰を求めてるのだ、と自分に問いかけてやりたい。ロボットに何を求めているのだ。利便性?いつかの夢?人類の野望?
 求めていた頃は楽だった。ただわくわくする胸を抱えていれば良いだけだった。今は違う。手に入れてしまったのだ。この夢を。
 夢を手に入れてどうしようとしたんだ、俺は。

もうこの世界には俺しかいないのに。

高層ビルの外は、虚無しかないのに。


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