ゆうひ夕焼けに淡く染まる舗道を歩くのが好きだ。色褪せたような太陽の色合いは、私の胸を掻き立てる。中途半端に人工的なアスファルトと、少し古ぼけた家たち、薄オレンジの光。なんてロマンチックなんだろう。これで隣に好きな人がいてれば完璧なんだけど。私の好きな人は名前を「ヒサシ」という。ちなみに私は「ミキコ」だ。 ミキコはヒサシに片思い中。今日でヒサシを好きになってめでたく1ヶ月目。(しかし全く進展は無いのでめでたくないです、ね。)ヒサシは隣のクラスで、ただの友達。中学校から気が合って、よくしゃべる方だ。ていうか、お互い一番仲の良い男友達、女友達だと思ってる。多分。ヒサシとは映画の趣味なども合うから、一緒に映画を観に行ったことが1回ある。そのコロは好きとか全然思ってなくて、なんともないイベントだった。今思うと悔しい。今だったら私にとって運命の決戦と行ってもいい位、すばらしいことなのに。 私は、まっすぐ前を向きながら、束の間の夕暮れ時の街を歩いている。耳にはジュディマリ。今日はミラクルダイビングというアルバムを聴いている。なんだかぼーっとしてきた。そのとき「ミッコちゃん!」と呼ぶ声が聞こえた。ヒサシだった。ヒサシが後ろから私に向かってかけてくる。予想外のヒサシの登場に私の胸はとくんと傾く。ヒサシは上下ジャージという出で立ちで私の前に現れた。 「よっ、2時間ぶり。なに制服でぶらぶらしてるんだー。出会い系サイトで知り合ったオヤジ待ちみたいだぞ」 面白くも無い冗談なのに私は、はははっと笑った。やばい、頬が硬くなってる。顔も赤くなってる気がする。 「こんなほのぼのした田舎町で援交してるやつなんて居るわけないじゃん。てかあんたもなにやってんの」 やっとこれだけ言い、私は目を伏せた。無意識に自分の髪の毛に手が伸びた。 「トレーニング!に決まってるだろ。俺、毎日5キロ走ってるから。将来水泳部のホープと期待されてる俺もこうやって努力してんの」 へえ、とだけ返し、私はさらに俯いた。学校よりも話すのに緊張する。学校だと、いっぱい人いるしなぁ。今は二人だけだからお互い相手にだけ言葉を投げかける。受け取るのは私しかいない。それがこんなに緊張するものなんて。 1ヶ月前に、はっきりとヒサシが好きだと意識してから、話すのがとても難しく感じるようになった。頭がボーっとして何も考えられなくなってしまう。 そのあと、ヒサシと私はお互いただ無言で歩き続けた。トレーニングというからにはヒサシは走りたいのだろうが、私に歩調を合わせてくれてることが、何より私の胸をしめつけた。 「なあ、最近ミキコ元気ないね」 私は、え、とヒサシの顔を見た。驚いた。 「なんかあんま俺ら、しゃべらないよね」 「・・・そうだね」それはアンタを好きになっちゃって、話すたびドキドキして辛いから逃げてるんだよ。と心の内でそう思った。 「だから、しらねぇよな」 「なにが」 「俺ね、」 「うん」 「かのじょ、できたんだよ」 「かのじょ?」 え、今、何て言った? 私は一瞬体が浮いたように思った。一瞬目の前がブラックアウトしたようにも感じた。 「一応、お前にはちゃんと言っとこうかなって。一番の女友達だし」 や、ちょっとまて、そんなこと言われてもこまるって。「女友達」だなんていわれても嬉しく無いし。頭がクララっとするけど、 「・・・だれぇ?」 これだけは知っていないといけない。 私は弱弱しく、小さな声で問うた。 ヒサシは短髪の頭をカリカリと触って、 「あー・・とね、水泳部マネージャーの、尾野あきこって人」 ああ、あの人。知ってる。ストレートの茶髪がキレイな人だ。白い頬が可愛い人だ。目がちかちかする。ひどいショックを受けると目の前が真っ暗になる、と大人が言っていたけど、本当だ。何も見えない。目の端から薄い夕暮れの光が読み取れるだけだった。 「告ったの?」 「わかんねー、なんかメールでそんな雰囲気になったから、付き合うか、ってなった。や、結構前から尾野さんいいなって思ってたんだけどー」 何が「わかんねー」んだよ、殺すぞ、と一瞬念じた。雰囲気なんかで彼女とか作っちゃうんだ。サイテーサイテーサイテー。尾野さんも軽いんだね。うん軽そうだよね。バカ女だね。いや私が一番バカ見てるよ、しょうみ。 「良かったね、彼女できて。」 1ミリも1ミクロもそう思ってなんかいやしないけど、祝福してやった。ヒサシは私を見つめた。首をすくめながら 「まぁね。」 とだけ言った。 私はさっと目をそむけた。オレンジに輝く夕日の方へ。涙が不意ににじんで来る。唇をかんだ。やたら夕日がぼやけてかすむ。苦しい。多分ヒサシは私をまだ見つめ続けているだろう。でも私はただ暮れゆく太陽を射殺すように睨んでいた。 ************************************ めちゃくちゃ久しぶりに小説書いた 一旦「あーーもーめんどーい」ってなったけど、一晩たったらまたムクムクと描きたくなった 文章を書くのは楽しいね 麻央ちゃんお題ありがとう ランクリ、拍手、感想くれたら喜びます |