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1000円ぽっきりケーキバイキング





 少しくすんだ洋風のドアを押すと、そこにもくすんだ雰囲気が漂っていた。
そこはケーキ屋。ケーキ屋兼喫茶店だ。
 まばらにしか客は入っていない。
私はカウンターに腰掛け、店内を見渡した。
「まさこちゃんじゃないの。またきたの」
皮肉ともとれるようなトーンで、私の叔母のショウコさんが近寄ってきた。
昭和を感じさせるフリルエプロンに、まきまきのパーマ。
ショウコさんのスタイルは私の見てきた数年間、ほぼかわらない。
すこし相手に威圧感をあたえるドスのきいた声も、もちろんかわらない。
「うん、今日は部活無いもん。」
「あ、そう。で、何にするの。注文は」
ショウコさんは、このケーキ屋喫茶「ミラクル」のウエイトレスであり、店長だ。
ウエイトレスという年でもないけど、ショウコさんの立場を形容する他の語句を私はしらない。
だってまだ中学生だもの。
「じゃ、ケーキバイキングを頼みたいな」
いつものオーダーをすると、あからさまにショウコさんは嫌な顔をした。
「あんた、いつもそれだよ。
やだやだ中学生は質よりも量なんだもの。
もっと食にこだわりを持った方がいいわよ。
だから消費者は甘く見られるのよ。
あんた、政府をなめちゃ、痛い目みるわよお。ふん」
まるで消費者が損するのが私のせいかのように、ショウコさんはなじった。
一つのオーダーで、ここまで関係の無い話をもちだせるショウコさんは、こういうところがすごいところだ。
大体、それほど言うならケーキバイキングをメニューからはずせばいいのにと思う。
「それと、まさこちゃん。
また少し太ったんじゃない?
学校でデブなんていわれないように気をつけなさいよお」
屈託も無く、私に「デブ」と言える。
念のために言っておくと、私は多分そんなに太くない。
ショウコさんは私を少し斜めにみている節がある。
でも、私のことが嫌いというわけではないと思う。
「ま、あのくそばばーが何の計画もなしにロールケーキをぽいぽい作っちゃうから。そのせいよね。」
ショウコさんは、私と一緒に住んでる祖母の、娘だ。
祖母はよくロールケーキを作る。
そして私はそのロールケーキを一人で平らげる。
なんてったって、二人暮しだから。
「はいはい、早く1個目のケーキ、なんにするのか決めなさいよ。私だって暇ではないのよ。」
「えーとねー、チョコケーキが良いな。あ、でもクリーム少なめにして」
いつものオーダーだ。数分もしない間に、私のテーブルの上に、ぽてっとしたチョコケーキが乗せられた。
とてもシンプルないでたちで、とてもつやのあるクリーム。
つるつるのお皿と、そのケーキはとてもなかよしのようだった。
「おいしそう いただきます」
間髪いれずに口の中にチョコケーキを放り込む。むむむむ。
「あ、おいしい」
期待通りの味が私の口内で溶けて行く。
「ミラクル」のクリームは溶けるようだ。
余分な甘さを捨てて、私を食の快感へといざなう。
ここまで美味しいケーキは、多分この日本で「ミラクル」以外ではお目にかかれないんじゃないかと思う。
「ね、これっていつもショウコさんが作ってるのよね?」
「当たり前じゃない。」
いつも思うけど、うそみたいだ。
自分の母親を常にくそばばーと称し、
実の姪に向かって、軽々と「デブ」と言い捨てることのできるほど、口の悪い人から、こんな芸術作品のような旨さが生まれるということは。
でも、私は納得できる。
私の祖母も、そういうタイプだからだ。
 ショウコさんと違って、祖母は私をほぼ憎んでいる。
別に私が何かしたわけでないけど、とりあえず憎んでいるのだ。
だが、私にものすごく美味しいロールケーキを作る。
ほおが緩むようなうまさだ。
その娘のショウコさんにも、人に対してマイナスの態度をとりながらも、極美味いお菓子を作る才能があるのだ。

 ぺろりとたいらげてしまったチョコケーキのあと、私はシュークリームを頼んだ。
「シュークリームはケーキじゃねえよ。ふざけてんのか」
といいつつ、またシュークリームを持って来てくれた。
すぐに食べる。
美味い。
次はティラミス。
――――――そんな風にして、ショウコさんの店のケーキバイキングのメニューを制覇していく。
「ごちそうさま」
「はいはい。お勘定。1000円ポッキリ。ったく、ここほど良心的な店は無いわよ」
「そうだね。安いよね。ハイ、千円。」
財布からぽんと1枚の千円札をだし、ショウコさんの手の平の上においた。
 私は時々考える・・・。
すべては、代価という概念で成り立っていると。
そうでなければ、このケーキバイキングと、値段はつりあわない。
あきらかにケーキの方に天秤ばかりは傾いている。
ショウコさんの私に対する口の悪さ+千円でちょうど、これらのケーキの旨さがつり合うのだ。
ショウコさんは、私の事は嫌いじゃない。
しかし、私にだけ酷い口の聞きようだ。
ショウコさんの日常生活にたまってる鬱憤を、私は受けている。
天秤ばかりは丁度良く傾く。
それで私は、千円という安価で最高に美味しい食べ物にありつける・・・そういうサイクルがどこかにあるのだ。
この世界に。
 私はまだ、そのサイクルから抜け出して、最高に美味しいショウコさんのケーキにありつく方法を知らない。
だって、まだ中学生なんだから。


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よ・みさん、222番オメデトウゴザイマス!
リクは「1000円ぽっきりケーキバイキング」でしたが、どうでしょうか、この作品は意に添えましたでしょうか?
ケーキバイキングといえば思い出がありますね。また遊びましょう。本気です。
実はこの作品、「ロールケーキ」っていうほかの小説とリンクしてるんですよね。
それと合わせて読んでいただければと思います。





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